独特のワードセンスが光る人気歌人、穂村弘。
歌壇でその卓越したセンスや技巧を惜しみなく披露し、今は選者としても活躍。
次世代の歌人の発見や育成にも寄与している穂村弘だが、短歌を離れるとポンコツだった?
穂村弘が現実世界と格闘する様子が収められたエッセイ集、『整形前夜』。
今回は穂村弘の名エッセイ『整形前夜』のあらすじと読んだ感想をご紹介します。
『整形前夜』の情報

- タイトル:『整形前夜』
- 著者:穂村弘
- 出版社:講談社(講談社文庫)
- ジャンル:エッセイ
- 読了日:2023年6月20日(再読)
あらすじ
人気歌人として名を馳せる穂村弘が、エレガントな姿に憧れつつ、目先の欲望に負けていく様子が綴られているエッセイ。
完璧で美しい世界を想起し、完璧で美しい自分を願いながら、実際には目の前の日常に翻弄されていく様子は「あるある」を通り越して圧巻の境地。
言葉のセンスはキラリ、いやギラギラ光っているのに、どこか「変」。
現実世界に上手く適応していけない己を赤裸々に吐露した名作。
感想
「この人変だよ」という印象を受けつつ、いつの間にか目が離せなくなっています。
ただ単純に変なのではなく、凄味がある「変」だからでしょうか?
穂村さんを取り巻く壮絶な現実に対して、穂村さんもまた、壮絶に、そして真剣にズレていく様は読んでいて頭がクラクラするほど。
そこに生じるギャップや絶望の切実さは、読者の心のやわらかい部分をチクチクと刺激します。
この『整形前夜』で一番印象に残っているのが「共感と驚異」。
穂村さんの短歌は特に「共感」と「驚異」が意識されて作られています。
しかし、その「共感」と「驚異」は短歌だけにとどまらず、エッセイにまでにじみ出ているのです。
つまり『整形前夜』全体に「共感」と「驚異」の合わせ技が。
「共感と驚異」の文中で「共感」と「驚異」を冷静に分析して予感を得るところに、天性の勘や無意識でやっているのではない、穂村弘の徹底した眼差しを感じることができます。
この「共感と驚異」のエピソードを読むだけでも、穂村さんのすごさが分かります。
正直、それだけで『整形前夜』は一読の価値があると感じました。
スマートでなくても、せめて普通でいたいと願い、普通でいようとすればするほど、おかしなことになっていくエピソードが切々と綴られています。
穂村さんと現実世界のズレに対して、読者は「穂村さんだから」と納得するのに、自分の中にも似たような体験を見つけて愕然とさせられます。
まさに強制的に「共感」と「驚異」の間を反復横跳びをさせられているのです。
何という技の巧みさなのでしょうか……。
まとめ:穂村弘の凄味がある世界を知りたい人におすすめ
完璧な世界、自分を求めながら、自分を取り巻く現実に対して真剣にズレていく穂村弘。
しかし、そのズレ具合はただの変な人では終わりません。
穂村弘は現実世界や己への徹底した眼差しを持っているからこそ、他の人が気付かないことに気付き、見落としてしまうものをハッキリと見てしまうのです。
その徹底した眼差しが見出す現実世界の「共感」と「驚異」、そして穂村弘が見る世界と現実世界のギャップ、あなたも味わってみませんか?
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