村上春樹が初期に書いた青春小説、その中でも「僕」と「鼠」の登場する話が「鼠三部作」として一つの大きな物語となっています。
それぞれのタイトルは『風の歌を聴け』、『1973年のピンボール』、『羊をめぐる冒険』。
中でも最終作『羊をめぐる冒険』は大きな物語のクライマックスを担うということもあり、読み応え抜群。
また、そのクライマックスシーンでは涙が止まらなくなるほどの感動が待ち受けています。
今回は、ハンカチ必須の名作『羊をめぐる冒険』のあらすじと読んだ感想をご紹介します。
『羊をめぐる冒険』の情報


- タイトル:『羊をめぐる冒険』
- 著者:村上春樹
- 出版社:講談社(講談社文庫)
- ジャンル:小説
- 読了日:2023年6月15日(再読)
あらすじ
1978年の秋、「僕」の青春が終わり、「鼠」の青春も終わる。
生命保険会社のPR誌に載った1頭の「羊」。
この「羊」を追う謎の男から依頼を受け、「僕」は「羊」のいる場所を探し始める。
そのすべてのきっかけは「鼠」からの手紙だった。
美しい耳のガールフレンドとともに「鼠」の行方を追い、北海道の奥地へと向かった「僕」。
「僕」を待っていた驚きの真実とは?
これは「僕」と「鼠」の“終わり”の物語。
感想
『羊をめぐる冒険』は今回の再読で泣きました。
今まで読んだときはなぜ泣かなかったのだろう、というくらいに泣きました。
「僕」と「鼠」が最後に対話するシーンで涙が止まりませんでした。
「僕」は姿を消した「鼠」の行方を、ひょんなことから追うことになり、大変な目に遭います。
しかし、「鼠」の居場所を見つけ、昔のようにビールを飲み交わし、きちんと「鼠」に別れを告げられたのは「僕」にとって良かったことなのだと思います。
おそらく「鼠」も「僕」に見つけてもらい、「羊」についての真相を聞いてもらいたかったのでしょう。
全てのきっかけとなった手紙も「鼠」からの不器用なSOSだったといえます。
もし、自分が一週間早く「鼠」の居場所に来られたら「鼠」を救うことができたのではないか?と「僕」が言いかけるシーンも、「鼠」が自身の記憶と弱さを持った状態で会いたかったが故に、死をもって「羊」と運命を共にしたという決意のシーンは涙なくしては読めません。
二人の不器用な優しさと苦悩がにじみ出ていて、今思い出すだけでも涙が溢れそうになります。
「僕」はナイーブさは捨てたかもしれませんが、友を思う心は変わりませんでした。
「鼠」は最後まで弱さを抱えていましたが、変わりたいという強い意志を持っていました。
そんな彼らの青春は1978年の秋に終わりを迎えました。
しかし、彼らの思いや友情は残り続けます。
ジェイズ・バーの共同経営者として名前を連ねることで。
それが「僕」にできる「鼠」への精一杯の供養だったのかもしれません。
またどこかで会えることを、できたら明るい夏に、という「鼠」の願いは二度と叶わないと「僕」も「鼠」も分かっています。
分かっていたからこそ、いつでもジェイズ・バーで「鼠」を思い出せるようにしたのでしょう。
「僕」が「鼠」に死んでいるんだろう、と迫るシーンでは、こちらの心臓も凍り付きそうになりましたが、最後にはあたたかい涙が頬を濡らしていました。
まとめ:村上春樹の初期の作品で感動したい人におすすめ
村上春樹の「鼠三部作」の最終章を飾る『羊をめぐる冒険』は泣けます。
『風の歌を聴け』や『1973年のピンボール』よりも起承転結が分かりやすく、クライマックスシーンの盛り上がりもあるため、「鼠三部作」の中で一番読んでいて楽しいと感じました。
文庫本では上下巻に分かれていますが、村上春樹の作品の中では短い方なので、サクッと読みやすいのも特徴です。
村上春樹の作品を読み始めた人、村上春樹の作品で感動したいという人には、まさにおすすめです。
「鼠三部作」の壮大なクライマックスをぜひあなたの目で見届けてください。
『風の歌を聴け』、『1973年のピンボール』のあらすじと感想はこちらです。
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